はぁ、怖かった。

さそり

タバコは根っこまで吸う。

このまま灰にするには、惜しい。

僕はショッポ(ショートホープ)を好んでいた。

吸うときは、いつも外。

部屋の壁紙と、プレステ2にヤニは付けたくなかった。

アパートの二階に住んでいた。

玄関を開けると、外廊下。そこでいつも吸っていた。

そのすぐ下に駐車場。僕のプリウス30系は部屋の正面に停めてある。

外廊下の目隠しフェンスに隠れるように、しゃがんで吸うのがマイスタイルだった。

コソコソしていたわけではないが、喫煙姿を外から見られる筋合いもなかった。

夜、時間はそこまで深くない。20時くらい。僕はいつものように、しゃがんでショッポを嗜んでいた。

すると、外から物音がした。

「バタンッ」

車かな?扉を閉める音と思っていいだろう。

よくある雑音ランキングベスト10には入ってくるであろう音だが、なにか違和感がある。

それは、”距離”と”位置”だ。

次に飛び込んできた音は、雑音ランキング圏外だった。

「カッ、カッ、カシャッ、カランカラン、ガシャ」

警戒心と好奇心の針は振り切っていた。すっと立ち上がる。

するとこんなものが目に入ってきた。順番に挙げていく。

愛車プリウス30系、

車のそばに人、おそらく男、

男の目にはサングラス、

男の口にはマスク、

男の手には軍手、

男の手には何かしらの道具、

男のもう片方の手には白色の鉄板らしきもの、

男は車の後方から前方へ歩いている。

ここまでの情報処理におよそ1.5秒。そこからの解釈に1.0秒、フリーズが0.8秒。

立ち上がってから3.3秒、僕は声を上げた。

「おいっ!!!」

あの白い鉄板はプリウス30系のナンバーだった。

その男は、後方のナンバーを取り外し、前方のナンバーを取り外しにかかろうとしていた、その時に僕に見つかってしまったのだ。

外廊下から足音全開で駆け出し、階段を1段ずつ、かけ降りていく。

すでに男の姿はなくなっていた。

道路へ飛び出す。

70m先に白のセダン車。ブレーキランプを付け、明らかにこちらの様子を伺っていた。

「待て!おいっ!」

全速力で追いかける。

スリッパとは。失敗した。

なにが起こるか分からない日常に、まず靴は必須であることを学んだ、この日。

追いつける訳が無かった。

携帯を取りに、部屋へ戻る。急いで。

当然、110番だ。

事情を説明し、電話を切る。

心臓は、はち切れんばかりにバクバクしている。

家族を前に、そこで放った僕の一言は、タイトルに置いておく。

そこからパトカーが3台、アパートの駐車場に集まった。

物々しい雰囲気、テレビで見たことある鑑識、事情聴取。

どこか楽しんでいる自分がいた。

この話は、8年前の出来事。

事件の三日後に、取り外されたはずのナンバープレートが見つかった。近くの草むらに捨てられていたのだ。

取り付けるのに一万かかったが、不幸中の幸いであった。

犯人は恐らく2人組。警察曰く、ナンバープレートの取り外しがあまりにもキレイなので、プロの仕業だと言っていた。

現在も見つかっていない。

まさか、自分がこんな目にあうとは、想像もしてなかった。

しかし、どんな目に遭っても、

僕のタバコは根っこまで吸われていた。

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